雪の下で、農業と向き合う〜守屋農園

雪の下に眠る甘さ
三月の東旭川町。畑はまだ深い雪に覆われ、空気は頬を刺すほど冷たく感じられます。そんな中で守屋大輔さんは、迷いなくスコップを入れます。雪をはね、凍った土を崩していくと、やがて橙色が顔を出しました。
「ここに、にんじんが寝てるんです」
掘り出された一本は、どこか透き通るような艶をまとい、ずしりとした重みがあります。口に含むと、驚くほどの甘さが広がります。
「寒さから身を守るために糖をため込むんです。凍らないようにする、その仕組みがそのまま甘さになります。自然がつくる味ですね」
自然の中で働きたい
守屋さんが農業に向き合う原点は、「自然の中で働きたい」という素朴な思いでした。旭川で育ち、野球に打ち込んできた少年時代。体を動かすことに苦はなかったものの、専門学校卒業後に勤めた会社では、どこか違和感が残ったといいます。
「やっぱり外で、自然を感じながら働きたかったんです」
鷹栖の農業生産法人に転職し、畑に立ったとき、その感覚は確信に変わりました。
「同じように見えても、作物は一つひとつ違うんです。全部に表情があります。難しいですが、それが面白かったです」
冬を“武器”に変える
二十六歳で独立し、旭川で新規就農。大好きだったトマトを中心に栽培を始めました。現在はミニトマトのほか、小松菜、青梗菜、ケール、そして寒締めほうれん草や雪の下にんじん、越冬キャベツなど、季節をまたぐ作物へと広がっています。
転機になったのは、「冬」でした。
「新規就農なので、とにかく勉強しないと周りに追いつけません。だったら一年中、農業をやるしかないと思ったんです」
多くの農家にとって冬は農閑期ですが、守屋さんはその常識に疑問を持ちました。調べるうちに出会ったのが、寒さを利用する栽培でした。
「理屈を知ると、なるほどと思いました。寒さに耐えるために糖を蓄えるなら、その環境を活かせばいいんです」
旭川の厳しい冬は、農業にとって大きな制約でもあります。しかし守屋さんは、それを武器に変えてきました。雪の下にんじんや寒締めほうれん草は、その発想から生まれたものです。
「雪ってデメリットばかりじゃありません。使い方次第で、価値になりますよね」
正解のない畑で学び続ける
寒締めほうれん草、雪の下にんじんの栽培は、共に十年以上になります。手応えを感じながらも、守屋さんは立ち止まりません。
「農業って正解がないんです。だから面白いですし、まだまだ勉強しないといけません」
就農から二十年。土づくりや水やりのタイミングといった基本に立ち返り、セミナーにも足を運びます。経験を積んだ今もなお、「学ぶ側」に身を置き続けています。
畑の外へ広がる思い
その視線は、畑の外にも向けられています。数年前からは生活困窮者への食料支援に取り組み、NPOと連携して子ども食堂を支えるフードバンクにも参加しています。
「農家として、できることがあるならやりたいです。野菜で誰かの役に立てたらうれしいですね」
雪の下で甘くなる野菜は、ただの農産物ではありません。厳しさを受け入れ、向き合い、そこに意味を見出した人の仕事です。
守屋大輔さんの畑には、旭川の冬がそのまま静かに息づいています。
